【つなぐPJ】映画『アトムとピース』 松永 瑠衣子さんに聞く

私が彼女のことを知ったのは、昨年公開された映画『アトムとピース』がきっかけだった。この作品は、長崎出身・被爆三世の松永さんが、長崎から福島・青森と“核の平和利用”の現場を旅し、核にまつわる“なぜ?”に向き合っていく姿を追ったものだ。

映画を見た後、私はすぐに「松永さんと会ってみたい」と思った。「長崎出身」「被爆三世」「同い年」と自身とも共通点の多かった彼女が、映画での様々な出会いを通じ、どのようなことを感じたのか、直接聞いてみたい。そして、これまでも被爆者の方々や東日本大震災の被災者の方々と交流のあった彼女と、考えや想いを交わしてみたいと思ったのだ。そして、今年1月、お話を聞く場を持つことができた。

 

■映画『アトムとピース』出演のきっかけは?

大学生の時に、沖縄戦を語り継ぐ活動をしている同い年の女の子と出会いました。彼女が講演で全国をまわっている姿に刺激を受け、「いつか2人で何かできないかな」と話をしていました。社会人1年目、彼女から「瑠衣子、映画に出てみない?」という電話がかかってきたんです。話を聞くと、彼女が沖縄で活動をしている時に、(映画の)監督の新田さんと知り合い、「被爆三世の女性を探している」という相談を受けたそうで。監督のイメージ(被爆三世でもあり、東日本大震災・原発に関する活動も行っている。その一方で観ている人と近い目線で核を学んでいけるようなベースがある。)と私がぴたりと合っていたということで、映画出演のお話を頂きました。

“小学校の講師”という立場の自分が映画に出ることを、監督は「意義があることじゃないか」と言ってくださって。「私じゃ務まらないのでは」と相談もしたが、監督が出演を強く希望してくれたので、お受けすることになりました。

 

■映画撮影の中で印象に残っていることを1つあげるなら?

青森で訪れた「あさこはうす」と小笠原厚子さんの姿。この場所を訪れ、厚子さんに出会ったことは衝撃でもあったし、心を大きく動かされた出来事でした。大間原発の用地買収を拒否し「どんなことがあっても(この土地は)譲らねえ」と言った、厚子さんの母・あさ子さん※1の言葉が強く印象に残りました。あさ子さんは買収の話を持ってきた人に対し「おめえたちも大変だな。この仕事をやっているということは、おめえたちにも守りたい家族があるから、働くしかないから、こうやっておらたちの所に来てるんだよな。でも、おらにだって守りたい家族がいて、守りたい土地があるんだ」と言われていたそうです。相手のことを分かった上で、それでも未来の大間のために譲らず活動を続けてこられた。お二人に「守りたいもののために、自分にできることを、自分にできる方法でやることに大きな意味がある」ということを再確認させてもらいました。

「あさこはうす」を訪れたことで、戦後、日本で原子力研究に携わった人々の背景についても考えるようになりました。もしかしたら彼らは、何もなくなってしまった日本に希望をもたらすため、その一心で原発の開発を進めたのかもしれないと。「否定からは何も生まれない」とあさ子さんから学びました。自分と意見の異なる人の背景も理解した上で、これから私たちはどういうエネルギーを選択していくのか考えることが大切だと思います。

 

■映画出演後、新たに取り組まれたことなどは?

長崎の友人が行っている「What’s Your Peace? ※2」という取り組みで、熊本県・佐賀県・沖縄県・広島県をまわりました。平和教育が盛んな長崎県を一歩出てみて、他の地域ではどんな教育をやっているのか、平和についてどんなことを思っているのか聞いてみたかったからです。「平和な時とは」、「平和じゃない時とは」などのテーマに沿って、グループで意見を交わす場を設けました。県によって出てくる意見は全然違いましたが、印象に残っているのは沖縄県。沖縄戦のことはもちろん、米軍基地のことが挙がりました。この回をきっかけに、辺野古基地を訪れたり、デモを行っている人に話を聞いたりしましたが、基地に関しては様々な意見がありました。同じ日本に住んでいても、同じ「平和」の形を抱いているわけではないと実感しました。

 

■同世代へ向けて

今でこそ「否定からは何も生まれない」と思うようになった私ですが、これまでは何でも否定から入る人間でした。例えば、選挙に行かない人に対して「なんで選挙に行かないのか」と強い言葉で訴えるようなこともしていました。でも、それじゃ何も生まれないし、相手を嫌な気持ちにさせることにやっと気付けた。皆が皆考えるというのは無理だと思うので、自分の人生の中でどれだけ時間がかかってもいいから、とにかく自分が伝え続けていくことだけは止めてはいけないなと思います。それは難しいことではなくて、笑い、楽しみながらでもやっていけることです。以前、キャンプをしながら、今の社会問題のことなど、ちょっとだけ真面目な話をするような場を設けたことがありました。笑いを交えながらそういう話をしてみると、参加者は意外に関心を持ってくれました。こういう場がきっかけになるのかもしれません。

松永 瑠衣子さん

松永 瑠衣子さん

 

■最後に

私たち1人にできることは、自分の目の前にいる人の意識を少しでも変えること、平和の種を植えることだと思います。それが今の自分にできることじゃないかなと。何年、何十年、何百年かかるか分からないけれど、1人1人の努力が10人に伝わって、100人に伝わっていく。地道だけどそれをやり続けるしかないのかなと思います。

 

 

1つ1つの質問に対し、丁寧に答えてくれた松永さん。彼女の活動への真摯な向き合い方、想いに触れ、はっとさせられるような気付きが随所にあった。彼女が繰り返し話していたことだが、はなから相手を否定してしまうのではなく、多様な考え方を受け入れていくこと。そして地道でも続けていくことが、継承活動には大事なのだと思う。成果を出したい気持ちが先走ると、つい忘れてしまいがちなことだからこそ、心に留めておきたい。

なお、松永さんは5月13日(土)東京で開催されるイベント「世界一周学校 文化祭『オトナディスコ』」にてブース出展予定である。本人と直接話ができる機会なので、ぜひ足を運んでみてほしい。

 

 

※1:大間原発の用地買収を拒否し、自身の土地に「あさこはうす」を建設。反対運動を続けた。2007年、逝去。

※2:「What’s Your Peace?」facebookページ

https://www.facebook.com/whatisyourpeace/

 

中尾(継承活動に取り組む人々をつなぐPJ)

*あなたも記事を書いてみませんか

「継承活動に取り組む人々をつなぐプロジェクト」ボランティア募集とこれまでの取材記事紹介

コメントを残す